その他の馬たち

 
ユウユウ ユウユウ
ユウユウ

「獣がいる、そのかたちは馬のようで羊の目、四つの角、牛の尾、その声は犬のほえるよう、その名はユウユウ。これが現れると姦人はびこる」(東山経二の巻)--244

絵・文とも『山海経』より
 
 
 角のはえた馬というのはいない。しかし、四本角の生き物にはいくつか心当たりがある。

 ひとつはすでに書いたマンクス・ログタン種やヤコブ種といったヒツジの古い品種。ヒツジとウマではだいぶ違うが、中国の古い文献では、大型のヒツジのことを「ロバのよう」と表現する場合があるのでウマのようだと言われても不自然なことではないだろう。

 また、イノシシの仲間でバビルサというのも四本角の生き物と言えそう。ただし、バビルサの「角」は、牛や鹿のようなものではなく顔の皮膚を突き破って生える犬歯のことだ。馬とはかなりかけ離れた姿をしているが、やはり蹄のある生き物である。

 なお四本角の馬について、読者の方からの謎解きも届いています。
 →山海経外典・きりん

 
 

 
 
旄馬 ボウバ
旄馬

 旄馬は馬のようで、四つの膝に毛があり、巴蛇の西北、高山の南にいる。(海内南経)--569

絵・文ともに『山海経』より

 
 郭璞は、『穆天子伝』に出てくる豪馬というのがこれと同じものだとして、豪とはヒゲのようなものであると言っている。

 膝にだけ毛が生えているというのは考えにくいが、力仕事用の馬には膝から下に長い毛が生える種類は多い。映画『ベイブ』で馬車を引いている馬も、膝から下に毛が生えていた。

 なお、巴蛇というのはゾウを食うという大蛇のことである。

シャイアシャイア
 馬車を引かせるための品種で、四本の足が太くしっかりしている。膝から下に豊かな毛が生える。
 このほかにもブルトンやベルシュロンなどという品種の馬も膝から下に長い毛が生える。みな力仕事をさせるための品種だ。

 言うまでもないことだが、こういったウマの品種が『山海経』の時代にいたというのではない。「膝に毛が生える」という言葉の意味をさぐるための参考だと付け加えておこう。

 
 

 
 
青馬(海外東経 大荒南経)
 日本では獣の毛色で青毛というと、平安時代には白っぽい青(灰色に近い?)のことで、奈良時代には黒みをおびた青のことだという(『広辞苑』より)。また、時代劇には「アオ」という名前の馬がよく出てくる。艶やかな黒髪のことを緑なす黒髪、などというように、馬のアオも、よく手入れされて艶のある毛色のことを言っているのだろう。
 中国でも、青いといえば黒い毛並みのことを言うので、『山海経』に登場する青馬も「艶のある黒い馬を産する」と言いたいだけだろう。
 

三匹の青い馬(大荒東経)
 三匹の、というのは文字通り三匹という意味ではなさそうだ。もともと『山海経』は絵地図に解説をつけた形の本だったが、同じものを三つ描くことで沢山ある様子を表現している場合があり、森なのに「木が三本」などと書かれている場所もある。この三匹の青い馬も、青い馬が群れなしている様子を表現しているのだろう。
 戦乱の続く時代には、馬は武将たちの宝だったろうし、良い馬のを産する土地が注目されていたはずである。
 

サンスイ
三騅(大荒東経 大荒西経)
 原文は上に紹介した三匹の青い馬とセットで「三青馬三騅」(大荒東経)となっている。郭璞によれば「馬の蒼白の雑毛なのを騅」だと言う。つまり葦毛のウマが三頭いるということだが、先に書いたとおり、騅馬の群れを三頭で表現したものだと考えられる。

 なお、日本語で葦毛(あしげ)というと、白い毛に黒や濃い茶色の毛がまじっている馬のことだそうだが(『広辞苑』)、漢和辞典によれば騅という文字は灰色の馬を表すという。まあ、日本語で言う葦毛の馬も遠目に見れば灰色なのかもしれない。また、楚王の項羽(紀元前232〜202年)は騅馬を愛したという。
 

サンスイ
三騅 「赤い馬がいる、名を三騅」(大荒南経)
 同じく三騅なのだが「有赤馬曰三騅」となっていて、こうなると名前なのか頭数なのか解釈が別れそう。
 

(北山経に4回、中山経に1回)
 

黄色い馬(大荒西経)
 「黄色い馬がいる。虎の文でひとつ目、一本足」とあるが、これについては一臂国とセットで別項に収録。

 
 
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