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甘太郎と坐和民

もう自分はターゲットからはずれたのだなと思う瞬間

 おともだちと焼き肉を食べようということになって、金町にある甘太郎に行きました。昭和三十年代をイメージしたテーマパークのような店内に、昭和の歌謡曲が流れるちょっと変わった焼き肉屋さん、だったはず。

 昭和といってもあくまで「イメージ」で、わりと似非っぽいんだけれど、イタリアをイメージした、中国をイメージした、フランスを、ドイツを、イギリスを……ってどうせどれでも似非だから、ファッションとして昭和があっても当然よいわけです。最近あまり金町へ行かないので、長いことご無沙汰してましたが、それなりに気に入ってはいたんです。チェーン店ですけどね。

 今日の気分としては、昭和っぽさを醸し出した店内で、ちょっと古めの大衆音楽とか聴きながらモツを焼いて食べたい気分でした。同じようなコンセプトだと、しちりんという店が近いんですが、こっちは大衆酒場系なので店内はごった返してます。そういうのがいいこともあるけれど、今日の気分は「昭和っぽくて、でもゆっくり食べて飲みたい」感じだったのでまっすぐ甘太郎に向かいました。

 ところが、なんだか雰囲気が違います。おおむね昔通りの店内ですが、各テーブルに液晶テレビが設置してある。少し時間が早かったのでお客さんは誰もいなかったにもかかわらず、六つくらいあるテーブルでそれぞれ違うチャンネルが映っていて、しかも音が出てる。その上、テレビ以外にBGMも流れてて、かかってる曲は思いっきり最近の曲ばかり。
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 わたしゃテレビが嫌いなわけじゃないですが、テレビってついてると、つい見ちゃうでしょう? せっかくともだちと飲みに行ったらともだちと話したいんですが、そう思ってても話題がとぎれる瞬間ってのは必ずあって、その時テレビに目をやってしまうと、ずーっと見ちゃうんですよねえ。それだったら家で飲みますってば。だいたい、これじゃ似非昭和ですらないですよ。ただの日常だから、何もわざわざお金出して食べに行かないなあ。

 一杯飲んだら出ようって決めて飲んでいたら、あとから立て続けに二組のお客さんが入ってきて、どちらも小さな子供連れでした。その時、自分がこの店のターゲットじゃなくなったことに気づいて、失敗したと思いました。子供連れなのは別にいいですよ。わたしも小さい頃、大人の行くような店にたくさん連れて行ってもらいました。でも、今の若い家族連れは家でするように子供にテレビを見せたりゲームをさせたり平気でするですよね。外では音を小さくしなさいとか、ヘッドホンで聴きなさいとか、決して言わない。

 人間、一度「それでいい」ことにすると、元にはもどれないものです。あの店をあたりまえだと思っている子供達は、やがてああいう店ばかりの世の中を作るでしょう。それが良いか悪いかはわからないけれど、少なくとも自分の居場所はあまりなさそうだと思います。自分は歳をとったんでしょう。これからどんどん、歳をとっていくのでしょう。わざわざそんなことを実感するために、高い肉とか食いたかぁないので二度とは行きません。

 お金払って外へ出たら、店の前に赤いのぼりが立ってました。よく見たら「全席にテレビ完備」みたいなことが書いてありました。入る前にこれを見てたらよかったと思っても後の祭りというやつです。昔気に入ってたあの雰囲気を求めて、まわりなどほとんど見ないでまっすぐ店に入っちゃったのは失敗だったなあ。

# 甘太郎では店員さんが「チャンネルはご自由に変えてください」と説明するし、最初からテレビの音を出してあるので、この状態に通されてテレビ見てるお客さんは、何も悪くない。見てあたり前です。こんなお店にしちゃった経営者のセンスを疑……いや、つまり経営者が望む客層に、わたしなんぞは含まれていないということなんでしょう。

# ついでに書いておくと、定食屋さんとかで店の一角にテレビが置いてあってBGM代わりになっているのは平気なんです。チャンネル権はお店の人が握っているので好きな番組を見られるわけじゃないし、ああいうのは邪魔にならない。甘太郎のムカつく点は、同じ部屋に六台くらいテレビがあって、一斉に別の番組をやってて、全部音が出てる。その上店内にはBGMまで流れている。ファミレスとかで音を出したままワンセグテレビを見てるオッサンとかいるでしょう。客の全員がああいう状態のことをしている(店側の意向でさせられている)わけです。そういう場所を提供するなら完全に個室にすべき。もし個室だったら、焼き肉を食べながらビデオの鑑賞会とか、焼き肉を食べながら新しいゲームの対戦大会とか、いろんなことをできるじゃないですか。そうなったら逆に利用したいと思うんだけれど、壁もない隣の席で別の番組を音出して見てるような場所に、ウンザリするんです。

坐和民で親切にしてもらった

 結局、甘太郎では一杯飲んだだけなので、どうしようか少し迷って坐和民へ行きました。地元の小さい居酒屋も面白そうだけど、なんかこう、チェーン店がいいこともあるじゃないですか。

 店の入口でお姉さんに1000円割引券をもらい、このご時世に太っ腹だなあと少し気分を良くしたのですが、よくよく見たら「二人以下のお客様は500円割引」と書いてあるのに気づいてとたんに安い気持ちになってしまう。

 いや、別に割引券なんて期待はしていなかったから、最初から持ってなかったら普通に定価でお金を払うし、それ自体にはなんの不満も抱かなかったと思う。でも、1000円引きという期待を持ったところへ、あんた達にはその資格はないって言われると、不意に足払いをくらったみたいにカクンとなってしまい、一気にテンションが落ちるのですよね。

「別に500円くらい惜しくない(惜しいけど)。でも、そういうみみっちいこと言われると、今からもう一度おねえさんのところへ行って、割引券をもう一枚もらって来ようかな。そんでもって、お勘定別にしたら1000円引きじゃないの。今更そんなことしないけど、これなら最初から割引券なんかもらわなきゃよかった。そのほうが気分良く飲めたのに」

 と、ブツブツ言ってたら、支配人みたいな人が来て「こちらの説明不足でしたから、1000円割引にさせていただきます」と言ってくれました。ゴネて踏み倒すつもりでは毛頭ないので、千円分くらい余計に注文しましたよ(割り引いてもらった1000円をチップで置いてくるような度量がないもので……汗)。
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タグ:たべもの屋

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