その他の鹿たち

 
 シカ科の動物はひづめが2個あって、たいていは角がある(ない種類もある)。馬より牛に近い生き物だが、牛と違うのは、牛の角は枝分かれしていないのに対して、鹿の角は枝分かれしているということ。また鹿の角は年に一度はえかわる。ウシの角は生えかわったりはしない。


 エンコ

 獣がいる、そのかたちは麋(なれしか)のようで魚の目、名はエンコ。鳴くときは自分の名を呼ぶ。(東山経三の巻)

 鳴き声に特徴のある鹿というと、スマトラやボルネオに棲息するホエジカがいる。体重は16Kgくらい、地面から背中までの高さは50Cmくらいと非常に小型のシカ。この小さな体で思いのほか大きな声で鳴くのでホエジカ。でも、珍獣はホエジカの声を聞いたことがない。オスには先が二股に分かれた独特の角があり、上顎の犬歯が発達する。
 魚の目というのがよくわからないが、ホエジカは眼下腺という分泌腺が発達しているので、そのことかもしれない。
 ほかに、ノロという小型のシカも、犬のような変な声で鳴くそうだ。

 どちらも小型で麋(トナカイ)とはあまり似ていない。



 
 中山経八の巻に名前だけ登場。
 キ
中山経十二の巻に名前だけ登場。

 そしてこれがノロ。平凡社ライブラリーの『山海経』には「おおのろ」という訳注がある。

 ヨーロッパとアジアに広く分布。森林地帯に棲む。ノロは体重が30Kgくらい、地面から背中までの高さが70Cmくらい、オスには先が三つ又になった変な形の角があり、犬のように吠えるが大変臆病な生き物。

 ちなみに、キバノロとは似ているが別種である。


 
トナカイの角 ナレシカ
 麋 西山経に1回、北山経に2回、東山経に1回、中山経に7回、名前だけ登場。

 近代の中国語ではシフゾウ(四不像)のことを指すが、『山海経』の時代から、はっきりシフゾウを意味したかどうかはわからない。トナカイなども含む大型の鹿を意味していたかもしれない。
 トナカイは北極圏を中心に広く分布している。北の方の少数民族が古くから家畜化していたようだ。基本的には草食で草やコケを食べるが、時にネズミなどの小動物も食べる。鹿の中でメスにも角があるのはトナカイだけ。メスの角はオスにくらべて小さい。
 肉は食用になり、毛皮も利用される。角は薬になるため、現在でも北方の諸数民族にとっては良い現金収入になっている。シカ科の動物は年に1度、角が生え替わるが、薬になるのは生えかわった直後の袋角とよばれるもの。袋角にはまだ血液が通っていて、鋸でぎーこぎーこ引いて切り取ると、切り口に血がにじむ。袋角が充分な大きさに発達すると、血流がとまって骨のように固い角になる。
 アメリカ大陸にいるものをカリブーと呼んで別種とする説もある。


 シュ
 麈 中山経に6回、名前だけ登場。

 ケイ
 中山経に2回、名前だけ登場。

 おおしか。大型の鹿のこと。 トナカイもわりと大型の鹿だが、もっと大きな鹿というと、ヘラジカがいる。
 ヘラジカは北ヨーロッパ・北アジア・北アメリカ北部に棲息する。シカ科最大の動物で、体重が800Kgくらい、地面から背中までの高さが1.8mくらい。オスには手のひらを広げたような変わった形の角があり、時には角の広がりが2mを越すものもある。草食性でヤナギやカバノキの葉と枝、水草などを食べる。ヘラジカバエという寄生バエをふせぐために、夏には水浴や泥浴びを好む。

ヘラジカの角

鹿 西山経に1回、東山経に1回、中山経に6回、名前だけ登場。

白鹿 西山経に1回、名前だけ登場。

 
 
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