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子に愛心を結びて、
  来世にて子の妻となる縁
『日本霊異記』中巻第四十一より

 これは経典にあることだが、昔、お釈迦様と弟子の阿難が墓地を歩いておられると、夫と妻が墓にお供え物をして泣いているのに出会われた。その墓に納められているのは夫の両親で、夫は父母を恋しがって泣き、妻もまた義父母を偲んで泣いていた。

 その様子を見て、お釈迦様は声をあげてお嘆きになられた。その嘆きがあまりにも深く感じられたので、阿難は「如来様、なにか特別な因縁でもあるのですか」とたずねた。

 お釈迦様は阿難に言われた。

「この女は前世で男の子を産んだのだよ。その子に深い愛情を抱いて、ついにはその子の男根を口で吸ってやるまでになった。

 そうして三年たつと母親は重い病にかかって死を迎えることになるが、死ぬというその時にも子の男根をすって『何度生まれ変わっても、そなたの妻になるでしょう』と言って亡くなった。その縁で母親は隣の家の娘として産まれて我が子の妻となったのだ。

 ごらん、そこで泣いている女は、前世の夫と、前世の自分の骨を供養して泣いているのだよ。ことの本末すべてを知っては嘆かずにいられようか」


 この話は「蛇に婚せられて…」の話のオマケについてるエピソードで、著者の景戒はお経に出てくると書いてますが、原典が何なのかは解っていないようです。
 
 大して難しい話じゃあないんですが、人間関係がフクザツなので、ちょっと整理しましょう。
 
・母親は息子を愛し、病に倒れて死ぬ
・死んだ母親は隣の家の娘として生まれ変わる
・息子は成長し、隣の家の娘(母の生まれ変わり)と結婚
・娘は義理の母(前世の自分)を供養している
 
 死んで生まれ変わるのは魂だけなので、前世の自分を来世で供養するなんてことがあり得るわけです。
 

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