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珍獣の食卓wiki「ヨモギ」 - ヨモギの仲間について

ヨモギの仲間について
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和名ヨモギ(蓬)
別名モチグサ(餅草)
学名Artemisia princeps(Artemisiaの中でも最上の)
科名キク科
沖縄口 フーチバー
アイヌ語noya ノヤ(揉む草)
中国名艾草 灸草 醫草…など
英名mugwort
エスペラントartemizio
herbomoc^io(餅の草)
その他
8月~10月
原産地日本

ヨモギに関するあれこれ

食用に、薬用に、そして魔よけに

ヨモギにまつわる言葉

(よもぎ)
 蓬という字はもともとアカザ科のなんらかの草のことで、いつの頃からか誤用されたまま定着したものだという(参考>創元社『薬になる植物』)。実際、中国や台湾のサイトで学名をたよりにヨモギについて検索すると「艾」はあるが「蓬」はない。蓬という字をあてるのは日本特有のことだ。

ノヤ「揉む草」の意
 アイヌ語でヨモギのこと。ヨモギを揉んだもので脇の下をこすれば悪いにおいを消し、乾燥した蓬を揉めばお灸のときに使う艾(もぐさ)になる。ノヤノヤ(揉み揉み)する草だからノヤと言う(参考[広告]>草風館『アイヌ植物誌』)。

Artemisia princeps
 ヨモギの学名。artemisia はギリシア神話の月の女神アルテミスに由来している。 princeps は「王子様のような」とか「最上の」という意味。アルテミスはあらゆる野生のものを管理する女神だが、草ではヨモギの類を自分のシンボルとしている。

mugwort(マグワート)
 ヨモギの英名。オウシュウヨモギ(A.vulgaris)のこと。その語源には諸説ある。ビールの香り付けにホップが使われる前はヨモギを使っていたことから、マグ(取っ手付きのコップ、ビールジョッキ)の草と呼ばれたとか、「小人を追い払う草」の意だとか言う(参考[広告]>平凡社『花ことば(下)』)。mugwort のどのあたりが小人なのか謎ではあるが捨てがたい説だ。

ワームウッド mormwood
 二がヨモギを意味する英語。霊母ワーモド Wermod の転訛と言われる。参考[広告]>朝日新聞出版『植物と行事

蓬矢(ほうし)
 蓬の枝で作った矢。魔をはらう力があり、中国では男児が生まれると桑の弓で蓬矢を四方に放って祝う風習があった(「桑弧蓬矢:そうこほうし」という)。

蓬莱(ほうらい)
蓬が島(よもぎがしま)
 中国の神仙思想で信じられている聖なる山。仙人の住む不老不死の土地で東の海上にあると言われている。中国から見て東海上といえば日本列島にあたるので日本の別名ともされる。

ヨモギにまつわる伝説・風習

地獄穴を見た男(アイヌ)
 熊狩りをする男がいた。
 熊をさがして山奥に分け入ると、今まで知らなかった穴をみつけた。
 中が気になって入ってみると、穴は奥のほうで急に開け、大きなエゾマツの木が一本たっていた。その木には死者がつく杖がいくつも立てかけてある。
 さらに奥へゆくと穴の中だというのに海があり、大勢の人が船から荷を降ろしているのに出会った。見知った顔の者がたくさんいたが、みなすでに死んだ人たちばかりだった。男が近づいて行っても誰も気づかない様子だった。

 さらに奥へすすむと小さな家があり、そこには死んだ両親が暮らしていた。
 両親は男を見るとこう言った。
「ここは死者の国だ、生きているお前を呼んだのは、いいきかせることがあるからだ。おまえが供えものをしてくれないので、わたしたちは宴会をしてみなを呼べずに肩身が狭いのだ」
 それを聞くと、男はあわてて今来た道を戻った。

 男は真っ青な顔をして家に帰り、妻にヨモギでお清めをしてくれるように頼んだ。そうして、ひとごこちつくと、さきほど見たことを妻に話した。
「死者の国へ行ったものは長くは生きないという。自分も長くはないはずだが、そういうことなので供物をかかさないでほしい」
そう言うと、男は急に寝込んでしまい、数日後には死んでしまった。

 男の妻は、そのことを長いあいだ誰にも話さなかったが、年老いて自分が死ぬときに子供たちに話して聞かせたという。

サマイクルと狐(アイヌ)
 サマイクル(国作りの英雄)とオキクルミが船に乗って交易に行こうとしていた。海に出る時は、水運を守る狐の神に祈りをささげなければいけないが、サマイクルとオキクルミはすっかり忘れていた。

 怒った狐の神がふたりをからかおうとして、沢の水源で歌ったり踊ったりはね回ったりした。すると風が吹いてきて、山の木は根こそぎになってしまうし、海のほうまで大荒れに荒れた。
 調子を良くした狐の神は、ふたりが死んでしまうまで暴れてやろうと思った。船が揺れてオキクルミは海に落ちて死んでしまった。サマイクルは大波が来ても船から落ちなかった。船の上にしっかり立って
「どんな化け物の仕業か知れないが、わたしを相手にして生きて戻れると思うなよ!」
そう言うと、ヨモギの小弓にヨモギの小矢をつがえて狐の神に放った。

 狐の神は、人間の矢が自分に当たると思っていないから、なおもはね回って暴れていたが、サマイクルのヨモギの矢に当たって死んでしまった。
 気が付くと狐は皮をはがれ、便所に漬けられていた。悪い心を持ったせいで、悪い死に方をしたのだから、これからの狐たちは悪い心を持ってはいけなよ、と狐の神は自ら語った。

蛇婿入り(沖縄)
 あるところに美しい娘がいた。
 その娘のところへ夜になると男が通ってくる。どの村の者かわからないが美しい顔の若者だった。
 やがて娘は若者の子供を身ごもった。どこの誰の子かわからず困っていると、隣に住んでいる物知りのおばあが
「縫い針に紐をつけて、どこでもいいから遠くに向かって投げなさい」
と教えてくれた。
 娘は言われたとおりにして、針がどこに刺さっているのか紐をたどって見に行くと、ツカサヤーというところの岩穴に住んでいる蛇の目に当たっていた。それ以来、ツカサヤーの神様には片目がない。
 蛇の子を身ごもった娘は、三月三日にヨモギ餅を食べた。すると、娘の腹から蛇の子がだらだらと生まれたという。

人間になった熊(韓国・朝鮮)
 むかし、熊と虎がひとつの穴で暮らしていた。空から神様が降りてきたのを見て、自分たちも人間になって神様のために働こうと考えた。
 神様は人間になりたいという二匹の獣にヨモギとニンニクを与え、
「百日の間、これをたべて穴にこもっているがいい。そうすれば必ず人間になれる」
と教えた。
 熊と虎は、さっそく穴にこもりはじめたが、虎はすぐに飽きて出て行ってしまった。熊だけが神様のいいつけどおり百日の穴ごもりをつづけ、ついに人間の女になった。
 人間になったものの、連れ合いの虎は逃げてしまったし、熊女(ウンニョ)は孤独だった。そこへ神様が若者の姿で現れて熊女と結ばれた。熊女は神の子を身ごもり、その子は人間として最初の王になった。(参考[広告]>青土社『韓国神話』)

マーメイドの薬草(イギリス)
 美しい娘が肺病を病んで生死の境をさまよっていた。
 娘の恋人が悲しんでいると、どこからか歌が聞こえてくる。
「ヨモギの花が咲いているというのに、その美しい乙女をあなたは死なせるつもりなの?」
マーメイド(人魚)の歌声だった。若者はヨモギの花の先を摘んでしぼり、その汁を娘に飲ませた。すると娘の肺病はすっかり全快した。

 スコットランド南西部のレンフルシャーの逸話では、若い娘の葬列が通りかかったときに水から姿を現したマーメイドが「3月にイラクサの汁を飲み、5月にマゴンズ(ヨモギ、またはニガヨモギ)を食べたなら、きれいな娘がこんなに多く、土になることはないだろうに」と歌った。

魔除けになるヨモギ(ヨーロッパ、エジプト、中東など)
 プリニウスによれば、マギ僧たちはヨモギを身につけることで、毒薬からも野獣からも、太陽によっても害されないと信じている。また酒に加えて飲むなら阿片の毒を消すとも言う。そのほか、様々な病気に薬草としてヨモギが使われていたようで、『博物誌』のあちこちに記述が見られる。また、日本でミブヨモギと言われているものを、エジプトではイシス女神につかえる僧侶が儀式に使ったとも書かれている。

ヨモギは地上で最も上席に位置するもの(アイヌ)
 アイヌ語では、ノヤイモシはヨモギの神のことである。オキクルミ神が天の国に帰る時、アイヌの国を守るようにたのんだのがヨモギの神だったと言われている。 ヨモギの槍で突かれた者、ヨモギの刀で切られたものは、どのような悪い神でも蘇生できない。 また、古い墓地を通る時は、腰を曲げてヨモギの杖をついて歩くものだという。萱野茂氏は「化け物が汚れた老人だと思って近づいてこないから」と説明するが、ヨモギが神聖な植物であることも化け物を遠ざける理由と考えられる。 参考[広告]>三省堂『萱野茂のアイヌ語辞典

珍獣様が食したヨモギ