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蟹退治>入院生活一日目その2

入院生活まだ一日目:そんでもって腹水穿刺

 もう、とにかく腹に水がたまりっぱなしである。いちおう癌闘病記なんだけれど、死ぬかもしれないとかいう悲壮感まるでなし。ほんとにない。そんなことを気にする余裕ないくらい、おなかに水がたまってしまう。

 どのくらいたまっているかというと、トイレに行き、用を足して、紙でふこうとすると股に手がとどかないくらいおなかがふくれてる! 足下に落としたものを拾う時、おなかがじゃまでかがめない。足を肩幅に開いてよいしょっとしゃがむ感じ。妊娠はしたことないけど、臨月の妊婦さんは、たぶんこんな感じ。

 妊婦さんと違うのは、ものを食べられないってこと。おなかは減るんだけれど、少し食べるともういっぱい。胃袋が圧迫されているせい。何度も書いているけれど、胸にも水があがってきているらしく(レントゲンで見るとあきらかに片側の肺が小さくなっている)、四六時中咳はとまらないし、タンがげぼげぼ出る。

 立っていると疲れてどうしようもなく、横になっても仰向けはきつい。体の左側を下にして右を向いて寝ると少し楽(たぶん胸の片側に水がたまってるせい)なんだけれど、ずっとその寝方をすると腹の重みで腹筋が連れて痛い。右側の、肋骨の下あたりが突っ張ったような感じになってる。どんな腹してるんだよと自分で突っ込みをいれたくなる。

 体の自由がきかなくなって寝返りを打てない人に使う枕を看護婦さんに貸してもらい、おなかの下にはさみこんで、さらに両手両足で抱え込むような感じで寝てた。抱き枕みたいねーとか言われたけれど、そうしないと寝られないくらいおなかが重いのよっ(笑)

 というわけで、なにはともあれ腹水は抜きましょうってことになるんだけれど、そこでまた一悶着。女の先生(たぶんベテラン)と若い男の先生(学生さんではなさそうだけど経験浅そう)がやってきた。病室までエコーの機械を持ってきてくれたんだけれど、そっからなかなか作業がすすまない。

女先生「同じところに刺すと前の傷がまだ新しいので……云々」
男先生「大丈夫ですよ、近くの別のところに刺しますから(やけに明るい口調)。この辺でいいですよね」
女先生「うん、そうね。針は長いのを使って」
男先生「はい。○○くれる?(と看護婦さんに針のサイズを指定)」

 こんな具合にご機嫌にくっちゃべりながら、まずは局所麻酔の針をぶすっと。なんかずーっとしゃべってる。男先生は、どうも練習中っぽい。人の腹で練習すんなよと言いたいところだけど、何事にも経験の浅い時期というのはあるので支障がなければ我慢。が、しかし、手際が悪い。そんなにだらだらやってると恐怖心がますのでやめてほしい。麻酔が終わったら今度はドレーンを入れる針を刺す。この時もあーだこーだしゃべってる。たまに「あれ?」とか言ってる。何をどうするとどうなるかわかってることなので我慢できるけれど、未経験だったら先生のチェンジを要求したいところだ。思いっきり疑いの眼で見ていたら

「痛いですか? 麻酔効いてるはずなので、痛みはないと思いますが」

とか言われた。くやしいけど、まるで痛くない。痛いのは、針が腹膜を通る瞬間だけで、分厚い皮下脂肪をいかように探られても、麻酔が効いてるあいだはこれっぽっちも痛まないのだ。でも、こんな時こそ痛いとわめいてやりたい気持ち(笑)

 こうして無事に(?)おなかにチューブが入ったけれど、次に問題なのは入ってるのが左の下腹だってこと。水の溜まり具合とか、おなかのなかの隙間の具合とかで、どうしても左側に刺すしかないんだけれど、刺したほうを下にして寝ないと水が出ないわけよ。でも、左を下にして寝ると胸に水がたまってる関係で息が止まっちゃうんだねー。

 看護婦さんがベッドを起こしたりいろいろ工夫してくれて、なんとかかんとか、この日は 1000cc の水を抜いた。これだけパンパンに水がたまっているのに、プチューッと勢い好く出るわけじゃなく、だらだらゆっくりと、二時間くらいかけて。途中でなぜか出が悪くなったりするのも不思議。水といってもさらさらの真水じゃないし、内蔵が動いたりして水の通り道を塞いじゃうことがあるのかな。ちなみに、この程度抜いたんじゃお腹は大してへこまない。それでもだいぶ楽になる。

 入院して一番いいのは腹水穿刺のチューブを抜かなくていいってこと。点滴のチューブを腕に貼付けておくみたいに、おなかのチューブもテープで貼っておく。これで苦しい時はいつでも抜いてもらえる。水漏れするかもしれないので紙おむつをおなかにまいて防御。よけいに腹が出て見える。入院してる場所は産婦人科病棟。どこをどう見ても妊婦です。ありがとうございました(くやしい)。

 体の中からそんなに水を抜くと、脱水症状にもなるし、ミネラルも一緒に出てしまうのでいろいろよろしくはないから、同時に点滴も。もちろん点滴のチューブも刺しっぱなし。あっちもこっちも管入ってる。ある意味サイバー。

ファイル 244-1.jpg
▲腕はこんな感じになってる。管は血管に入ったままで、薬液の袋につなげる部分に栓をして、ガーゼでぐるぐるまきにして、ネットで腕にとめとくの。血液が逆流して固まってしまわないように、凝固をおさえる薬が入れてある。

 番号のついてる白いバンドは個体識別用。動物園でシカやカンガルーの耳についてるのと同じ(笑)患者が意識不明でも誰だか確認できるように、入院するとすぐにつけられる。はさみで切らないとはずれない予定(でも、しばしば外れる)。番号は部屋番号。隠れて見えないところに名前も書いてある。黒いゴムにピンクの札がぶらさがってるやつは貴重品入れの鍵。

 腹も写せないかと思ったけれど、ポンポコリンで股にも手がとどきにくいような状態では無理だった。手鏡を持ってなかったことだけが強烈に残念だよ。自分の腹を見たい人は大きめの手鏡は持ち物に加えておいて(笑)

 ちなみに、腕も腹も、金属の針は刺す時だけで、刺さったら抜いてしまうの。体の中にささっているのはしなやかに曲がる素材のチューブのみ。だから刺したまま動き回っても大丈夫。煩わしいことはたくさんあるけれど、昔とちがっていろんなものが進化してる。子供の頃、盲腸で入院した時なんか、毎日点滴してたけど、そのたびに針を刺し直してたよ。

体重

 恥ずかしいけど後々おもしろいので体重を記載。入院中は毎朝決まった時間に体重を量った。手術前は常に 64〜65Kg あった。

就寝

 病院の夜は早い。午後九時には消灯になる。正直ねむれるわけがない。カーテンをして音はイヤホンで聴けばテレビくらいは見ていられるけれど、わたしは右をむいていないと苦しいのに、テレビがあるのは左側! 季節は真夏、エアコンは入っているけど病室はやけに暑い。みんなよくこの状態でカーテン閉め切って平気だなって思う。でも、冷え性の人がいると気の毒なのでエアコンの設定を変えられないチキンなわたし。四六時中咳が出るので、同室の人はそうとううるさい思いをしてるはずだし(汗)

 普段使っているマイスリーという睡眠導入剤を飲んだけれど、この日はあまり効かなかった。この薬は飲むとすぐに効いてくるかわりに二時間後くらいに効き目が切れ始める。寝付きに失敗すると、もう効かないんだよねえ(この話を看護婦さんにしたら、そんなはずはないって否定されたけど、説明書読めといいたいです。効き目が強いのと効きが長いのは比例しません)。もちろん手持ちの薬は病院には申告済み。睡眠薬や精神安定剤などの持薬のある人は言えばたいていのものは飲めるのでご安心。

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