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鑽羊洞(中国)
さんようどう

 昔、あるところに貧しい小作農の一家がいた。地主のひどい仕打ちにたえかねて、土地を捨て、山奥にかくれて暮らしていたが、山の獣たちが畑を荒らすし、虎や狼も出るので毎日ビクビク暮らしていた。

 ある夜、その家の娘が畑の見張りをしていると、どこからか真っ白な羊の群れがやってきて、畑を駆け回った。おどろいた娘は家で寝ている家族を起こした。みんなで畑に出てみると、やはり羊たちは畑を駆け回っている。

 こんな立派な羊が野生であるはずがない。どこかの家から逃げてきたものだろうからと、虎や狼から守るために囲いのなかに追い込もうとしたが、羊たちは言うことをきかず、一斉に山の方に駆けていってしまった。一家は慌てておいかけたが山の中で羊を見失い、あきらめて家に帰った。

 朝になって畑に出てみると、羊に踏み荒らされたはずなのに、いつもより作物がよく育っている。次の夜、また次の夜も、白い羊の群れがやってきて畑を駆け回ったが、そのたびに作物はよく育つようになった。

 ある日、親戚の者が一家をたずねてきたので、一家の主はこの不思議な出来事を話してしまった。仙羊下山の話はあっという間に評判になり、意地悪な地主の耳にも入った。

 その話を聞いた地主は、本当に仙羊ならば金貨や銀貨が化けたものに違いないと思って、小作の一家を自分の土地に連れ戻した。すると、白い羊の群れは山の畑に現れなくなった。地主は羊をさがしに山にのぼったが、白い羊たちには出会えなかった。

 ある夜、山の北側で、とうとう羊の群れに出会った。地主が近付こうとすると、羊はひょと逃げてしまう。地主は羊を追いかけて山の中をぐるぐると歩き回り、最後に羊が洞窟の中に逃げてゆくのを見ると、喜んで洞窟に飛び込んだ。

 けれど、洞窟の中には真っ白い石があるだけで、羊はどこにもいなかった。もちろん、金銀財宝もみつからず、地主はがっかりして家に帰った。
 

サイマル出版『シルクロードの伝説』

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