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ある僧の妻、嫉妬して蛇と化し、
       夫のアレに喰い付く事
 『古今著聞集』巻第二十より

 ある遊女のところへ僧が通って来るのを、僧の本妻が嫉妬して、どうしてくれようかとやきもきしてみたものの、夫はなおも遊女のもとに通いつづけた。

 建長六年二月二日の夜のこと。
 しょうこりもなくこの僧は遊女と落ち合ってよろしくやろうと企てるが、いざ彼女のやりはじめると急に本妻を抱いているような気分になった。ひどく驚いて引きはなれてよく見れば、やはり愛人その女である。
 気を取りなおしてまた始めたところ、どうしても本妻を抱いているような気持ちになる。

 恐ろしいことだと思い床からはいだしたところ、長さ五、六尺(1.5m くらい)の蛇がどこからかやってきて、僧のアレの頭のところにパックリと食いついた。
 振りはらおうとすると余計にくいついて、口も裂けんばかりになっても離れない。仕方がないので刀を抜いて蛇の口を切りひらいてはずした。
 口を切られた蛇は、間もなく死んでしまった。
 その後、この僧のあの物が腫れて、見も心もひどく苦しめられて生きた心地もなくなった。

 死んだ蛇は堀川に流してしまったが、京の町の子供たちが、おもしろがって集まって見ていた。
 僧の妻もその夜のうちに苦しみはじめて、間もなく死んでしまったと言うことだ。
 まったく恐ろしい話である。


 このお話は『古今著聞集』という本はタイトルの通り、著者が見聞きした数々のお話を、古いものも、新しいものを取り混ぜて編纂した説話集で、建長六年の成立だそうです。
 その後いくらか増補されているそうですが、上に紹介したお話の中にも「建長六年二月二日」とあるので、著者が生きている時代に実際にウワサになった話を収録したもののようです。
 

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