疫病神
 
 
 本所石原町に、はりま屋惣七という人がおりました。ある日、惣七は、見知らぬ人から声をかけられました。
「あいすみません。わたしは犬が苦手で、このあたりには犬をかう家がおおくて難儀しております。どうか道づれになっていただけませぬか」

 見ればやせこけて気弱そうな男でしたから、惣七は心よく承知して、連れだってあるきはじめました。

 しばらく行くと、男がいいました。
「ありがとうございます。わたしはこの先の家に用事がありますので」

 惣七は「おう、そうかい」と別れて行こうとしました。それを男が、ちょいとまってくださいと、引きとめて、
「実は、あたしは疫病神でございます。このたびはこの先の家に疫病をもってまいりました。あなたはよいお方だからお教えしますが、あたしらのようなものは、犬と赤いものが苦手ときまっております。毎月三日に小豆の粥をたく家にはちかよりません」
と、いって、去っていきました。
 それから数日すると、男が入っていった家では使用人が疱瘡にかかり、家中の者がばたばたとたおれ、ついには家がたえてしまいました。

 それからというもの、このあたりでは毎月三日に小豆の粥をたべるようになったということです。
 

 
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