| 三人の兄弟がそれぞれ別の道で出世して故郷に錦を飾るお話。出世の手段や結末が少しずつ違う類話がたくさんあります。ここでは二種類の三兄弟出世物語をご紹介します。
 
 その1・泥棒になった末っ子
  あるところに三兄弟がありました。父親は息子たちにお金をわたして、
「これを元手にして何かおぼえてくるだぞ。一人前になるまで帰ってきてはいかん」
 と、いいました。
  しっかり者の長男と次男は、それぞれ小間物屋と薬屋に住みこんで仕事をおぼえてかえってきました。けれども生来なまけものの末っ子は、はたらくのがいやで町へはいかず、山の奥へずんずん歩いていきました。
  末っ子が歩いてゆくと、山奥に一軒の家があったので、とめてもらうことにしました。その家にはおばあさんがいて、末っ子の話をきくと、
「そんだらここではたらくがええ。よくはたらいてくれたら、ええもんをやるから」
 と、いいました。
  そのまま末っ子は、おばあさんの家で馬の世話や畑しごとをしてくらしました。三年たったころ家にかえりたくなって、
「おら、三年もはたらいただ。そろそろ、ええもんをくれんかのう」
 と、いいました。
  おばあさんもうなずいて、
「うんうん、おまえはようはたらいた。そんならこれをやろうかのう」
 と、ボロきれにつつまれたものを出してきて、末っ子にくれました。
  こうして末っ子は、ボロきれのつつみをもって、山をおりていきました。ずんずんあるいていると、とちゅうでつつみの中からおかしな声がします。
「おーい、ここからだしてけろ」
  末っ子がつつみをあけてみると、すすけて真っ黒になった人形しゃべっているのでした。
「なんだ人形がしゃべっとる。ばあさまは妙なものをくれたもんだのう。見せ物にでもしろっちうだか」
 末っ子がそういうと、人形はきーきー声でいいました。
 「しんぱいせんでも、おらがおまえを大金持ちにしてやるだ」
 「はあ、そりゃありがてえ。で、どうすりゃええだ」
 「とにかく家さけえるだ。おまえはおらのいうとおりにすればまちがいねえだ」
  末っ子が家にたどりつくと、父親は「おまえは何かおぼえてきたのか」と、ききました。すると、末っ子のふところの中で、すすけた人形がちいさな声でいいました。
「盗人(ぬすっと)のわざをおぼえてきた、といえ」
  末っ子は人形のいうとおりに、
「おら、大泥棒になってけえってきただ」
 と、こたえました。
 「そんなはずあるめえ。おまえは生来ずぼらでものぐさ者だで、盗人稼業がつとまるわけねえ」
父親がそういうと、人形がまたいいました。
 「そんならこの家の馬をぬすんでみせる、というだ」
 末っ子が、この家の馬をぬすんでみせるというと、父親はおおわらいして、できるもんならやってみい、といいました。
  夜になると、人形がいいました。
「厩(うまや)のかべの下に、穴さほってけろ」
 末っ子は人形のいうとおり、厩のかべの下に穴をほりました。
 「ここからぬすみさへえるだか」
 「いんや、この穴じゃ馬っこひっぱりだせねだろ。こんだ、でっかい声で、これからぬすみさへえるどー、とさけべ」
 「そんただことして、お父が起きてきたらてえへんだ」
 「いいから、さけんでけろ。おまえはおらのいうことさきいてればええだ」
  しかたなく末っ子は
「これからぬすみさへえるどー」
 と、さけびました。
 すると、家じゅうの者がおきてきて、厩のまわりをしらべはじめました。
 「旦那さま、ここに穴がありますだ」
 「三郎め、さてはこの穴から厩さへえっただな」
 父親は、おおきな錠前にカギをさして、厩の戸をあけました。けれど、中には誰もおらず、馬もぜんぶそろっています。
 「三郎はそこらにいるはずだ。みんな、はやくさがしてけろ」
 そうして、みんながおおさわぎしているあいだに、末っ子はあけっぱなしの厩から、馬をぜんぶひっぱり出しました。
 これには父親もおどろいて、末っ子が大泥棒になったとみとめないわけにはいきませんでした。
  それからも末っ子は、人形のてびきでお金持ちの家にぬすみにはいり、しだいにゆたかになりました。やがてお金にこまらなくなると、人形を神だなにまつって二度と泥棒はしなかったということです。
 その2・不思議な縁で結びついた三兄弟
  あるところに、三人の兄弟がありました。兄弟の父親は、息子たちにお金をやって、
「おまえたちも年ごろになった。この金をもとでにして何かおぼえてこい。出世するまでかえってきてはいかんぞ」
 と、いいました。
  三人の兄弟は、いっしょにあるいて行きましたが、道が三本にわかれている場所までくると、次男がいいました。
「ずっといっしょにいてもつまらない。ここからはわかれて、それぞれ別に出世してもどってこよう」
 「今日は九月十五日だから、三年後のおなじ日に、またここで会うことにしよう」
 「よしわかった。なごりはおしいがお別れだ。みんな元気でやれよ」
 こうして、三人は別々にあるいて行くことになりました。
  長男がずんずんあるいていくと、沼のほとりに雁(がん)がたくさんいるのがみえました。
「はらもへったし、あの雁に石でもぶつけてとってやろう」
 そういって、長男はあたりをさがしてみましたが、石ころひとつおちていませんでした。しかたなく、お父さんからもらった小判を財布からだして雁にむかって投げましたが、ひとつも当たらず、小判は沼にしずんでいきました。
  無一文になった長男は、すきっぱらをかかえてあるいていきました。すると、たおれかけたお堂があったので、今夜はここでねることにしました。
  真夜中になると、耳元でおかしな声がします。
「おーい、おきろ。おきてくれ」
 長男がねぼけまなこをこすりながら見ると、お堂のゆかに古ぼけてふちの欠けた木の椀がころがっていました。
 「なんだ、お椀がしゃべっとるぞ」
 「おまえ、おらといっしょに仕事さしねか」
 「お椀なんか、なんの役にたつ」
 お椀は、ゆかの上でくるくるころげまわると、
 「しんぱいねえ。おらのいうこときいていれば、たちまち長者さんになれっから。
 ここからしばらくいくと、大きな町がある。町でいちばん大きな屋敷をさがして、おらを猫くぐりからほうりこんでけれ。そうすりゃ万事うまくいく」
 と、いいました。
  つぎの朝、長男とお椀がずんずんあるいていくと、大きな町にたどりついた。町でいちばん大きな屋敷をさがし、夜になるのをまってかから猫くぐりからお椀をほうりこんだ。すると、お椀は中からカギをあけて、長男をいれてやった。
「さあ、宝さもてるだけもってにげるだ」
  そうやって長男は町から町へとわたりあるき、お椀のてびきで盗みをはたらき、名代の大泥棒になりました。けれど、長男は生来おひとよしな性格だったので、泥棒でもうけた宝はまずしい者にわけてしまい、自分はいつもみすぼらしいなりをしていました。
  さて、次男はどうしたか。
兄や弟とわかれ、ずんずんあるいてゆきましたが、どこまでいっても人里に出ませんでした。つかれはてて道ばたの草の上にこしをおろすと、どこからかおかしな声がきこえます。
 「これ、おまえ。わしをひろってけろ」
 次男があわててあたりをさがすと、古ぼけたヘラが一本おちていました。
 「なんだ、ヘラじゃないか。おらに何か用かい」
 「おまえ、わしといっしょにちょっくら仕事しねか。
 この先に長者さんの家がある。娘が病気でくるしんでいるから、このわしをうらっかえして娘の尻さなでてやれ。したらば病気はけろりとなおる」
  次男はヘラをふところにいれて、ずんずんあるいていきました。一里ばかり行ったところに長者さんの屋敷があり、中から女の子がうんうんいってくるしんでいるのがきこえてきた。
次男は中にはいっていって、
 「ごめんなすって。娘さんが病気だときいて、いやしてさしあげようと思って来ましただ」
 と、いいました。家の人たちは、わらをもつかむ思いでしたから、次男を屋敷にまねきあげました。
  次男は、娘の部屋に行くと、人ばらいをして、ふところからヘラをとりだして、娘の尻をそろそろとなでまわしました。すると、あれほどくるしんでいた娘がけろりとなおってしまった。
  長者さんは、次男を命の恩人だといって、下にもおかないもてなしをしました。そして、とうとう、娘と結婚して長者の婿養子になってしまいました。
  さいごに末っ子の話をしましょう。
ふたりの兄とわかれてずんずんあるいていると、さびしい山の中で日がくれてしまいました。しかたなく、松の木の下でやすんでいると、どこからともなくなまぐさい風がふいてきて、むこうの山から大きな蛇が、ぐでんぐでんとのたうちながらおりてきました。
  末っ子はびっくりして松の木にのぼりましたが、大蛇はそれに気がついて、長い体でぐるぐると木をまきながらのぼってきます。
末っ子がふるえながら念仏をとなえていると、ふいに帯(おび)がゆるんでふところに入れていた小判がザラザラとおちて、大蛇の口にはいりました。大蛇は小判をのどにつまらせて、ぐったりとしてしまいました。
  そこへ城の殿さまが家来をつれてやってきました。
「なんと、この大蛇を退治しにまいったのに、すでにたおされておるではないか。いったい誰が退治してくれたのか」
 そこへ末っ子が松の木からおりてきたので、殿さまは末っ子を家来にくわえ、悪者を退治する役目をあたえました。
  そうして、三人の兄弟は、それぞれ別の道で出世して、三年の月日がながれました。長男は大泥棒として名をはせていましたが、もうけをぜんぶ貧乏人にほどこしてしまうので、土産にできそうなものがありません。そこで、お椀と相談して、今日はとくべつでっかい仕事をすることにしました。
  次男は長者の婿さんになっていましたから、五百両というお金を用意して、里にかえることにしました。
  さて、末っ子はというと、殿さまから町をあらす泥棒を退治する役目をおおせつかりました。しばらく前に町の長者さんの家から五百両という大金がぬすみだされたと訴えがあったのです。
  末っ子がやっとの思いで泥棒をつかまえてみると、その顔にみおぼえがありました。
「こりゃおどろいた、兄者でねえか」
 ぼろぼろのみなりをしていますが、三年前にわかれた長男です。末っ子が兄の話をよくきいてみると、うったえを出した長者というのは、これまた三年前にわかれた次男だということもわかりました。
  こうして、三人の兄弟はふたたびめぐりあいましたが、あまりにふしぎな縁に、胸がつまって、ただ涙をながすばかりでした。
  それから、次男はうったえをとりさげ、長男も泥棒をすっぱりやめ、故郷から父親をよびよせて、しあわせにくらしたということです。
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