人のはじまり
 
 
◆人のはじまり(鹿児島県鹿児島市吉野町)

 昔、世界がどろどろで、やっと固まってきたころ、火の神様が土をこねて人の形のものを作りました。明日の朝、命を吹き込んでやろうと思って、その日は寝てしまったら、翌朝になると土人形がみんな壊されていました。何度作っても誰かに壊されてしまうのでした。

 火の神様は、今夜こそ寝ないで番をしていようと思って、その日は念入りに人形を作りました。お昼前に二体、お昼過ぎに二体、夕方に二体、六体の人形を作って番をしていると、地面がぱっくり割れて、土の神様が出てきました。人形を壊していたのは土の神様だったのです。

 土の神様は、土を勝手に使われたのを怒っていました。火の神様はおわびすると、土の神様は「では五十年たったら返してほしい。それで許してやろう」と言いました。人間の命が五十年で終わって土にかえるのはそのせいなのです。

 火の神様が土人形に命を吹き込むと、お昼前に作って日にたくさんあてた人形は黒い人になりました。お昼過ぎに作った人形はほどほどに日にやけて黄色い人になりました。夕方作った人形は陰干しだったので白い人になりました。

 今では人間の寿命ものびて、七十年や八十年も生きるようになりましたが、それは土の神様が見張りをおこたっているからです。そのうち交通戦争や新しい病気がおきて、また五十年で死ぬようになるでしょう。それが土の神様との約束だからです。

 

 
◆こぼれ話◆

 世界がどろどろだったのは日本神話で、火の神様が人を作ったというのはアイヌ神話風で(日本神話で原初の母になったイザナミも火山の女神っぽい描写があるので火の神なのかもしれないが)、土をこねて人をつくるのはキリスト教の影響なのかもしれない。この話はちくまライブラリー『昔話の年輪80選』という本からとったもので、オリジナルの文には「昔学者さんに聞いた話だけれど」という枕があった。学者=神父 or 牧師か? 中国の伝説にも女神が泥から人をつくったという話がある。最初は手でこねていたが、それでは時間がかかるので、泥にひたした縄をふりまわし、飛び散った泥から人を作った。そのため、人間にはできのいい人とできの悪い人がいる。
 

 
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