旅人の馬
 
 
 貧乏人の息子と金持ちの息子がいました。ふたりは家柄こそちがいましたが小さいころから仲よしでした。

 ふたりでお伊勢さんにお参りしようと旅をしていると、宿場からだいぶはなれたところで日がくれてしまいました。くらい道をとぼとぼあるいていると、ぽつんと一軒だけ家がありました。

「もうし、一晩だけ泊めていただけませぬか」
ふたりがそう言って戸をたたくと、中から人のよさそうなおばあさんがでてきて
「こんな夜に次の宿場まで行くのはたいへんでしょう。ささ、中へおはいりなされ」
といって、あたたかくむかえてくれました。

 真夜中になると、貧乏人の子供はなんとなくねつかれなくて、ふとんのなかで目をあけていました。すると、囲炉裏(いろり)のほうで音がするので、そっとおきだしてようすを見に行きました。

 ふすまのすきまからのぞいて見ると、おばあさんが火箸で囲炉裏の灰をならしていました。そして袋のなかから何かのたねをとりだして、畑のようにたがやされた灰にまきはじめました。

 するとどうでしょう。種はすぐに芽をだし、あっというまに成長して、こがね色になりました。それは三寸ばかりの背たけでしたが、よくみると稲のようです。穂が重そうに頭をたれていました。

 おばあさんは小さな稲をかりとると、櫛(くし)の歯をつかって実をおとし、手のひらにのる小さな石臼で粉にしました。それから、その粉をこねて何かつくっているようでした。

 次の日の朝、朝ご飯のかわりだよといって、おばあさんはおいしそうなおだんごをすすめてくれました。

 貧乏人の息子はぴんときました。ゆうべ作っていたのは、このおだんごだったのです。貧乏人の息子はきみがわるくなってだんごに手をつけませんでした。けれど、金持ちの息子は「うまい、うまい」といいながら、お皿いっぱいのだんごをぺろりとたいらげました。

 するとどうでしょう、金持ちの息子は耳と顔がのびて、あっというまに馬になってしまいました。貧乏人の息子はびっくりして、おばあさんがようすを見にくる前に宿からにげだしました。

 貧乏人の息子は、なんとかして友だちをたすけたいと思いましたがどうしていいかわかりません。とほうにくれて歩いていると、とちゅうで白いひげのおじいさんに会いました。

「これ、お若いの。青い顔をして、いったい何があったのかね」
 おじいさんに声をかけられて、貧乏人の息子は、この人ならたすけてくれるかもしれないと思って、友だちが馬になってしまったことを話しました。
「ふむふむ、そういうことなら知恵をかしてやろうかの。この道をまっすぐいくと、一反の畑にナスばかり植えられているから、一本の木に実が七つなったものをさがして友だちに食べさせてやるがいい」

 おじいさんの言うとおり、道のさきには広い広い畑があって、ナスばかり植えられていました。貧乏人の息子はものすごい数のナスをひとつひとつたしかめて歩き、何日もかけてようやく七つの実をつけたナスをみつけました。

 貧乏人の息子は、七つのナスをもって馬にされた友だちのところへもどりました。夜中に厩(うまや)に忍びこんでみると、友だちだった馬はよほどひどいあつかいをうけているのか、やせこけて、きずだらけになっていました。
「さあ、このナスを食べるんだ」
 そうして、持ってきたナスを食べさせると、馬はたちまちもとの人間のすがたにもどりました。

 こうしてふたりは村にもどりました。金持ちの息子は友だちが馬になった自分をたすけてくれたのだと父親に話してきかせ、父親も息子のともだちに何度もお礼をいいました。それから、自分の財産を、息子と貧乏な友だちにわけてくれたので、ふたりとも大金持ちになって幸せにくらしたということです。
 

 
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