木仏と金仏
 
 
 あるところに長者さんがおった。
 りっぱな金の仏様を大事にしておったんだと。

 村の若い衆がそれを見て、
「おらもあんな仏さまを持てたらなあ」
と思っていると、川上から棒っきれが流れてきたんだと。
 ひろいあげてみると、棒っきれは仏さまの姿をしてる。
 若者は家にもってかえって朝晩お供え物をして大事に拝んでいたんだと。

 ある夜、長者さんが物音に気が付いて目をさますと、家の前に村人が集まって何かしている。
 様子を見に行くと、長者さんの金仏と、若者の木仏が、とっくみあって相撲をとっているのだった。

「こりゃあ愉快だ。川流れの棒っきれ様がうちの仏さんに勝てるはずがない。もし棒っきれ様が勝てたら、わしの家屋敷、田畑すべて、耳そろえて若者にくれてやるぞ」
 長者さんがそういうので、村の衆もおもしろがって、川流れの棒っきれ様を応援しはじめた。

 そのうち、棒っきれ様が長者さんの金仏をぽーんと投げ飛ばして一本あった。
 長者さんは真っ赤になって、
「この役立たずの金くずめ。棒っきれなんかに負けおってからに」
と、金仏をしかりつけた。
 すると、金の仏さんは
「そんなことをいっても、年に三度のおまんまじゃ力がでねえ。棒っきれ様は若者の家で毎朝毎晩まんまいただいて、力をつけているんだから、勝ってあたりまえじゃねえだか」
と言うんだって。

 それを聞いて長者さんは恥ずかしくなって、若者に家屋敷と田畑をやると、どこか遠くの町へ行ってしまったんだとさ。
 

 
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