蘇民将来と茅の輪くぐり
 
 
 むかし、スサノオのミコトが北の国から南の国へ嫁を探して旅立った。

 みたわの国へたどり着いた時、巨旦将来(こたんしょうらい)の長者の家をみつけ一夜の宿を乞うが相手にされず「お前のような汚らしい奴は、あっちの蘇民の村にでも行け」と追い出された。

 蘇民の村では貧しいながらもあたたかく迎えてくれたので、その親切に感動したミコトは、もうすぐ北の方から「あわさ」という疫病がやってくることを人々に伝えた。そして、茅を束ねたものを輪にして家のまわりを囲えば大丈夫だと教えるのだった。

 ミコトの言うとおりにして疫病にそなえると本当に疫病がやってきた。あちこちの村で死人が出たが、蘇民の村だけは無事だった。

 スサノオのは旅立つ前に「これからは蘇民将来子孫家門と書いて門口に貼ればどんな疫病をも逃れることができる」と教えて去った。

 

◆こぼれ話◆

 旅をしていたのはスサノオではなく牛頭天王という話もある。牛頭天王は妻をめとるために摩詞陀国から南海の竜宮に向かう途中だったが、夜叉國で巨旦将来の一族に襲われて苦しんだ。

 夜叉国から千里はなれたところに蘇民将来という老人に宿をかり旅のいきさつを話したところ、老人は隼鷂という宝の船を捧げて牛頭天王を応援した。この船は瞬時で何千里も進むという不思議な船である。

 この親切に感激した牛頭天王は、夜叉国を攻め滅ぼして老人にあたえ、これからは「蘇民将来の子孫である」と言えばどのような災厄からも逃れられると教えた。

 蘇民将来は天徳神ともいわれ、スサノオとセットで祀られていることが多い。旧暦六月晦日には、 全国の素盞嗚尊神社などで茅の輪くぐりをして厄を祓う。また、伊勢地方では正月の注連飾りに蘇民将来の札をつけて新しい歳の幸せを願う。
 

 
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