カタツムリとタニシの婿入り
 
 
◆でえろん婿(群馬県)
 むかし、子のない夫婦が神様におねがいして、どうか子供を授けてくださいとお祈りしつづけたら、お母さんの腹が大きくなって子供が生まれたんだと。

 念願かなって生まれた子供は、でえろん(カタツムリ)のかっこうをしていたんだと。カタツムリでも神様のくれた子だからと、夫婦は大事にそだてたんだって。

 姿形はでえろんでも、たいそういい息子で、馬のたづなをとって畑を耕したりして、たいそうよく働いたんだと。

 ある日、でえろん息子が
「おら、嫁を探しに行ってくる。ボタモチを作ってくれろ」
というんだって。働き者のいい息子だけれど、こんなでえろんに嫁なんか来るかねえと、お母さんは少しあきらめながら、ボタモチを作ってやったそうな。

 こうして、でえろんは大きな殻にボタモチのつつみをゆわえて、ぬらぬら歩いていって、大きな村の庄屋の家までやってきたんだと。そこには美しい娘がいるというので、よし、この娘を嫁にしようと決めたわけ。

「もうし、一晩泊めていただきとうござんす」

 でえろんがそういうと、家の者が出てきてあちこち見回すんだけど、どこにも姿が見えないんだって。

「ここです。ここでござんす」

 でえろんがもう一度言ったので、家の人にもしゃべっているのがでえろんだって分かったんだと。こりゃ珍しいお客さんが来たもんだって、家中でおおさわぎして、でえろんを泊めてやったと。

 夜中になって、家のものが寝静まってから、でえろんはこっそり部屋を抜け出した。娘が寝ているところをみつけて、持ってきたボタモチのあんこを、口のまわりにべっとりつけておいたんだと。

 それからボタモチは自分で食べてしまって、朝になってからオイオイ泣き出して、
「おらが持ってきたボタモチが盗まれた」
って大騒ぎをしたんだと。

 それを聞いた庄屋さんは、家のものから盗人が出たとあっては恥になるというので、使用人から家族まで厳しく調べたんだって。そうしたら娘の口にあんこがべったりくっついているので、

「すまんことをした。おまえのボタモチをとったのはうちの娘じゃ。どんなお詫びでもするから許してくれ」

っていうんだって。それで、でえろんは「娘を嫁にくれたら許す」っていったわけ。

 そういうわけで、庄屋さんは娘に立派な嫁入り衣装を着せて、馬にのせてでえろんに渡したんだと。でえろんは馬の手綱を引いてぬらぬらと村へ帰っていった。

 娘さんは、どうしてもでえろんの嫁になんかなりたくないから、馬の耳に口を寄せて、
「馬、でえろんをふみつぶせ」
って、言うんだけれど、馬がひづめでふんづぶそうとすると、でえろんはつーっと先に進んでしまって、ちっちも潰れなかったんだって。

 もうちょっとで村に着くころに、娘さんも必死になって、
「馬、馬、でえろんふみつぶせ」
って、何度も何度も言うから、とうとう馬がでえろんの殻をぶちんとふんづぶしてしまったんだと。

 するとどうしたことか、でえろんの殻の中から立派な人間の若者が現れたんだって。娘さんは大喜びで、若者と一緒に村へ帰ったんだと。

 村では見知らぬ若者と娘が来たというので大騒ぎになって、若者が「お父さん、お母さん、でえろんが立派になって帰ってきました」というので、お父さんもお母さんもたいそうよろこんで、みんなで幸せにくらしたとさ。

 
◆たにし息子(栃木県)
 むかし、子のない夫婦が神様におねがいして、どうか子供を授けてくださいとお祈りしつづけたら、お母さんの腹が大きくなって子供が生まれたんだと。

 ところが生まれた子供というのが人間の姿をしていない。大きな殻をかぶったタニシだったんだとよ。それでも神様が授けてくれた子供だから、夫婦は大事に育てたんだって。

 そうしたある日、タニシの息子が
「おら、東京へ見物に行ってくる」
というんだね。

 お父さんとお母さんは、食うや食わずの生活をしているから、何も持たせてやることはできないけれど、それでもよければ東京へでもどこへでも行っておいでって、タニシを旅に出してやったんだと。

 やっと東京にたどりついたタニシは、人通りの多いところでゴロッタンゴロッタン転げまわって遊んでいたとよ。そうしたら見物の人たちがたくさん集まってきて、なんて大きなタニシだろうってビックリしたんだって。

 見物の人の中には美しい娘さんたちもいたんだけど、中でも一番器量のいい娘さんをみつけると、タニシは娘さんの体にぴたっと吸い付いて、おしても引いてもどうやっても離れなかったんだって。

 娘がびっくりして泣き出すと、タニシが口をきいて
「おらあんたを嫁にしたくてくっついた。嫁になってくれれば離れる」
というので、娘はしぶしむタニシの嫁になることにしたんだと。

 それでも、タニシに嫁ぐのなんかいやだと思ったので
「あんたも東京中ころげまわって泥だらけになっているだろうから湯に入ってきれいになったらいい」
といって、大きな釜にぐらぐら湯をわかして、タニシをいれて蓋をしてしまったんだと。

 そのまま茹で殺すつもりだったから、何時間も蓋をとらずに煮つづけて、そろそろ死んだだろうって蓋をあけたら、釜の中には立派な若者が座っていたんだって。娘はもうびっくりして、こんな立派な若者ならば自分のほうから嫁に行きたいって、逆に若者ののことが好きになってしまったとさ。

 そうして、タニシの若者と娘は夫婦になって、産んでくれたお母さんとお父さんのいる村へもどってきたんだけど、立派な嫁入り行列が家の前でとまったので、お父さんとお母さんは何が起こったのかさっぱりわからなかった。それで、

「おっとう、おっかあ、おらタニシだ。人間になったんだ」

といったら、あのタニシが立派な息子になったんだって、ふたりとも大喜びで、東京から来たお嫁さんといっしょに、みんなで仲良く暮らしたんだってさ。
 

◆タニシ息子(熊本県・熊本市)
 子のない老夫婦が養子をもらおうとあちこちあたっていると、タニシが出てきて「おらを息子にしてくれろ」という。

 タニシは馬の扱いを覚え、薪をのせて町へ売りに行くのも覚える。タニシながらよく働くのを見て薪問屋の旦那は思わず「自分の娘を嫁にやる」と言ってしまうのだが、三人の娘のうち二人の姉はタニシの嫁などまっぴらだと言う。末の娘だけが父親の言うことならばとタニシの嫁になる。

 それからしばらくタニシの夫婦は仲良く一生懸命はたらくが、お盆になるとタニシの夫が「自分の殻をたたき壊してほしい」というので、嫁がおそるおそるたたいて壊した。するとタニシは立派な男になった。

 家に帰ると老夫婦が怒って「嫁はタニシの夫をうとんじて別の男とくっついた」と言うが、人間になったタニシ息子がわけをはなすと喜んで、末永く幸せに暮らしたという。
 

◆たみなの婿(鹿児島県)
 田に水が来ないので困った農夫が「もし水を引いてくれたら娘を嫁にやる」というのを聞いて、たみな(タニシ)が水を呼んでくる。農夫は三人の娘にその話をするが、長女・次女ともにタニシの嫁はイヤだという。末の娘が嫁入りして、タニシの殻を割ると中から立派な侍が現れて幸せに暮らした。
 

◆こぼれ話◆

 子のない老夫婦が神仏に祈願してさずかった子供がカタツムリやタニシといった異形のものだったというお話。その子供が旅に出て美しい娘を嫁にした上に立派な人間になって帰ってくる。一寸法師(1102)の類話だと思う。

 鹿児島県のたみなの婿蛇婿入りの水乞い型に似た話になっている。タニシといえば田んぼに住んで水とかかわりの深い生き物なのに、他の話には水が出てこないのは不思議だ。

 
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