竜宮の馬
 
 
 むかし、あるところに魚をとる爺さんがおったと。
 浜辺を歩いていると、子供たちが亀をいじめておる。
 爺さんは、子供らにお小遣いをやって亀をはなしてやった。
 その夜、美しい娘が爺さんをたずねてきて、
「わたしは竜宮の使いでございます。さきほどは亀を助けてくださってありがとうございました。お礼にこの馬をさしあげます」
と、犬っころほどの大きさの小さな馬をくれた。
 竜宮のお使いがくれた馬は一日にお椀一杯の餌を食べる。
 そして、一日に一個だけ、黄金の粒を産んだ。
 おかげで爺さんの暮らしはだんだん楽になったんだと。

 隣の爺さんが不思議な馬の話を聞きつけて、三日でいいからと言って馬を連れて行ってしまったんだと。
 欲の皮のつっぱった爺さんは、餌をたくさんやれば金をいっぱい産むだろうと思いこんで、むりやり餌を食べさせたから、馬は餌を喉につまらせて、ぽっくり死んでしまった。

 魚とりの爺さんは、泣きながら馬を裏庭に埋めてやったんだと。
 すると、馬の墓から木がはえてきて、みるみるうちに天まで届くような大木になったんだって。
 爺さんがびっくりして見ていると、どこからか声がする。
「この木を切って臼にしてくれろ。臼で米を搗いてみろ」
 きっと馬のたましいが呼びかけているんだろうと思って、爺さんは木を切りたおして臼を作ったんだと。
 それから米をいれて搗いてみると、搗けば搗くほど米が増えて、臼からあふれていっぱいになった。
 爺さんは、その米を売って暮らしたので、どんどん暮らしが楽になっていたんだと。

 そこへ隣の爺さんがやってきて、三日でいいからといって、臼を持っていってしまった。
 ところが、隣の爺さんが搗くと、米は糠(ぬか)ばかりになって、家中が糠だらけになってしまったんだと。
 隣の爺さんは、かんかんに怒って臼をたたき割ってしまったんだと。

 魚取りの爺さんは、臼の木っ端をもってかえって囲炉裏の火にくべてみた。
 すると、木っ端はぼうぼうと良く燃えて、しばらくすると金色のおき火になったんだと。
 そのおき火がいつまでも燃えつきないので、おかしいと思ってよく見てみると、木っ端はみんな黄金の塊に変わっておった。

 そこへ、また隣の爺さんがやってきて、そんなにいい物ならわしにも分けてくれやといって、木っ端をひとつ持っていってしまったんだと。
 ところが、隣の爺さんが木っ端を囲炉裏にくべると、バチバチとはぜて、家中に火の粉が飛び散った。
 家はたちまち火事になって燃えてしまい、隣の爺さんはどこか遠くへひっこしていったんだとさ。
 

◆こぼれ話◆

 前半は「浦島太郎」で後半は「花咲爺」である。まったく別の話が合体しているようにも見えるが、ひょっとすると「海でひろった流木を焚きつけにしたら黄金に変わった」という単純な話に尾ひれをつけた結果、浦島太郎や花咲爺に似てしまったのではないかという気もする。

 遠野の昔話に「雁取爺」というのがあるが、この話では良い爺さんに恵みをもたらす犬が「焚きつけにしようと川でひろった木の根っこ」から生まれることになっている。犬の墓から生えてきた木に金や銭が成る。

 
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