猫檀家(ねこだんか)
 

 あるところに貧乏な寺がありました。年老いた和尚さんが、一匹の三毛猫といっしょに住んでいました。ひとりぐらしの和尚さんは、三毛猫を自分の子供のようにだいじに育ていました。

 ある日、和尚さんは法事によばれて帰ってくると、寺に誰かいるのか、やけににぎやかなようすでした。庭のほうからまわってこっそりのぞいてみると、三毛猫が和尚さんの袈裟(けさ)をきておどっているのをたくさんの猫たちが見物しているのでした。

 和尚さんは、猫にきづかれないように玄関にまわって、えへんと咳払いをしてから戸をあけました。すると、さっきまで袈裟をきておどっていた三毛猫が、なにごともなかったかのように和尚さんをでむかえて、にゃぁ、となきました。

 その夜、和尚さんがねていると、枕元に三毛猫がやってきて、人間のことばでいいました。
「長いことやしなってもらって、わたしもとうとう化ける年になってしまいました。今日はとうとう和尚さんにみやぶられてしまったので、おひまをいただきとうございます」

 次の朝、和尚さんは白いごはんをたいて、かつおぶしをたくさんかけて猫にたべさせてやりました。
「お前が化けても、わしゃ気にせんがのう。どうしてもというなら、とめやせんよ。たっしゃでなあ」
和尚さんがそういうと、猫はじっと和尚さんの顔を見てから、どこかへ行ってしまいました。

 そらからしばらくして、遠くの村で長者さんが死なれたといううわさをみみにしました。このあたりでいちばんの大分限者(大金持ち)の家ですから、それはりっぱな葬式をあげようとしましたが、そのたびに雨やら雷やらでお棺が出せず、家の者たちがこまっているというのです。

 そうしたある日、出ていったはずの三毛猫がふいにかえってきて、
「長者の隠居が死なれたことはごぞんじでしょう。葬式がすまず、家のものがこまっています。ちょっといって葬式を出してやってくださいな。和尚さんがいけばうまくいくようにしておきますから」
と、いうと、またどこかへ行ってしまいました。

 そこで、和尚さんは長者さんの家まででかけていって、
「わしに葬式をさせてくれんかのう」
と、たのみました。
 町からえらい坊さんをたくさん呼んできてもすまなかった葬式が、こんな貧乏坊主にできるものかとばかにする者もありましたが、とにかくやらせてみようということになって、和尚さんはお経をあげはじめました。

 すると、急に天気がよくなって、何度やっても嵐にじゃまされた葬式がとどこおりなくすみました。こりゃあ、大したお坊さまだと、遠くの町まで評判になりました。

 それからは、和尚さんの寺も立ちなおって、やっていけるようになったということです。
 

 
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