| 隠れ里(二) | 
|  | むかし、ある人が朝早く山のほうを見ていると、山から美しい女が手まねきをしているのが見えました。山はずいぶんとおくにあるのに、なぜか女の顔がはっきり見えました。 おかしなこともあるものだなと、その日はなにごともなくすごしましたが、同じようなことが何度もつづくようになると、一日中その女のことが頭からはなれなくなり、ついふらふらと、山へはいってしまいました。  山の中をさまよっていると、あの女があらわれて、
 はて、そんな約束をしたおぼえはないがと、男はけげんに思いましたが、女に案内されるままついてゆくと、山奥だというのにお城のように立派なお屋敷があり、ここでいっしょにくらしましょうといわれました。 男にはすでに妻がいましたが、女にいわれるまま夫婦になり一カ月ばかり夢のようなくらしをつづけました。けれど、ふと村に残してきたもとの妻のことが気になって、しばらくのあいだ、村にもどりたいといいました。  すると、女は
  男が村にかえってみると、自分の家におおぜい人があつまっていました。どうやら誰かの法事のようです。見知った顔のものをつかまえて
  すると、その人はびっくりして、
 男が生きてもどってきたので、村中が大さわぎ。だれもが今まで何をしていたのかとききましたが、男は山での話をけっしてしませんでした。けれど、みんながかえって妻とふたりっきりになると、黙っていられなくなり、すっかり話してしまいました。  そのとたん、男は気を失ってたおれ、それっきり体が動かなくなり、山へもどるどころか、足腰が不自由なまま一生を村でくらしたということです。
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