集英社
 オリガ・モリソヴナの反語法icon

 小説。1960〜64年、父親の仕事の都合でチェコスロバキアのソ連大使館附属の普通学校に通った主人公(日本人・少女)は、在学中に出会ったダンスの 教師オリガ・モリソヴナにひかれて行く。いったんは帰国するものの、ソ連崩壊後におとずれたロシアで老女教師オリガの半生を追ううちに、オリガとロシアの過酷な歴史と直面する。

 しばらく前になんとなく買ったまま放置していたものです。この手の歴史物はもともと嫌いじゃないんですが、小説をハードカバーで買うなんてマネはここ数年したことがありません。なのに本屋さんで平積みになってるのを見て単純にほしいと思い、何も考えずにレジでお金払ってました。魔が差 したというのも変な話ですが、そうとしかいいようがありません。冷静に考えるとやばい買い物の仕方だとかなり反省しながら読み始めました。ところがどっこい、読み始めると面白くて、この出会いは運命だったのかもしれないとすら思えてきました。

 ソ連は第一次世界大戦のときにレーニンがおこした共産主義革命によりできた国ですが、レーニンが死ぬと、そのあとを引き継いだスターリンによってレーニン派の政治家や思想家がかたっぱしからシベリア送りにされたという悲惨な歴史を持っています。反対勢力を粛正するのは独裁者のおやくそくみたいなもんでしょうが、国中の人たちがお互いを監視し、気に入らないことがあれば密告しあったので、大した理由もなく連れて行かれた人もたくさんいたようです。

 そんな中で、主人公のダンスの先生であるオリガ・モリソヴナも強制収容所を転々とするわけですが、どんな窮地にあってもへこたれず豪快に生き抜く肝っ玉の太さは、悲惨な歴史の中で星のような輝きをはなっています。そして、収容所生活の終わりに見せた涙。チェコスロバキアに脱出したオリガは、ダンサーとして再び舞台に立つことを夢想しますが、長い闇の時代にすり減らした若さだけは、彼女にもとりもどすことはできませんでした。
 自ら舞台に立つことをあきらめたオリガは指導者としての才能にめざめ、ソ連大使館附属小学校で子供達にダンスを教え始めるのです。

 作者の米原万里さんは 9〜14歳までの間プラハのソビエト学校で学んだ経験があるということです。主人公の少女時代のことなどは、かなりの部分が実体験に基づいているような気がします。どのくら いまでフィクションなのかよくわからないのですが、作者の身近に地獄のような収容所生活を生き抜いた先生が本当にいたのかもしれません。

 ネタバレになってしまうので書けませんが、オリガ・モリソヴナが処刑をまぬがれた経緯は謎に満ちています。謎解きの手法は、お世辞にも緻密とはいえませんし、サスペンス小説としてはB級かもしれません。それでも読めてしまうのは、共産圏で少女時代をすごし、時代を肌で感じた作者ならではのものかもしれません。

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 米原万里は TBS 朝の報道番組「ウォッチ」にコメンテーターとして出ている人です。

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