和名 ハス
別名 はちす(蜂巣)
中国名 蓮肉または蓮子(どちらも種子)
科名 スイレン科
学名 Nelumbo nucifera
7〜8 月
10〜11 月
原産地 インド
採集地 東京都葛飾区


 
 実のなる部分がハチの巣みたいなので、蜂巣→はす、というのが名前の由来のようです。果実は滋養強壮、婦人病、吐き気止め、下痢止め、口の渇きなどに効果があるそうです。漢方薬の材料にするほか、中国ではお粥に入れたりするみたい。中華食材屋へゆくと、乾燥したのを売ってます。
 根の部分をレンコン(蓮根)といって、煮物に入れると美味しいですが、ほんとのことをいうと、あれは根っこじゃなくて茎です。地下茎というやつなんです。レンコンには穴がありますが、蓮はどこもかしこも切り口はあんなふうです。水上に出てくる葉柄のぶぶんにも穴があいてます。

蓮田
1999年8月27日撮影

 あるお姫様が仏の世界を見たいと念じていたら、夢枕に仏が現れて「ハスの茎からとった繊維で糸をつくり、布を織りなさい」と教えた。姫君がそのとおりにすると、はたして蓮糸の布には見事な極楽浄土が描かれていたのだった。
 このお話は、珍獣が小さい頃に何かで読んだ昔話なのです。昔話といっても、たぶん今昔物語か宇治拾遺物語か、そこらへんの古典作品の一部のような気がします。でも、原典は読んだことないのでぜんぜん違うかも。
[追記]
 最近になってやっとこの話の元ネタを見つけました。『古今著聞集』の巻第二にある「横佩大臣女當麻寺曼荼羅を織る事」という話です。同じ話が『當麻寺曼荼羅縁起』にもあるそうです。
 蓮の糸で織った布に極楽浄土が見えたという、東洋的幻想の世界に、幼少時代の珍獣はふにゃ〜っとなってしまいました。
 ふにゃ〜っとなりながらも珍獣は考えました。
「蓮の糸ってどんなのだろう。本当に蓮から糸なんか作れるのかな?」
 珍獣様がご幼少時代をすごされた土地には蓮田なんかなかったので、蓮の繊維というのがどんなものなのか想像もつきません。もとが奇跡のような話なので、もしかしたら蓮から糸を取るのも「不可能に近いこと」の比喩なんじゃないかと思ったのです。

 ところが、蓮糸の布というのが実在することがわかりました。
 もうずいぶん前のことだけれど、
「蓮の茎からとった糸で布を織ることに成功!」
テレビで一瞬だけ、そんなニュースが流れたのです。
 平安のころに行われていた技術の再現とかいう話だったと思いますが詳細は忘れました。ただ、確かに蓮糸の布は作れるらしいのです。

 そうなると本物の蓮の糸が見たいじゃないですか。あわよくば自分で糸に撚ってみたいとすら思うわけです。
 そんな思いを頭の片隅にとっちらかしたまま時は流れ、あるとき突然「あ、今だったら蓮はそこらに生えてるんだった」という事に気づくのでした。珍獣はかなり間抜けです。水元公園は蓮の名所。家から30分も歩けば蓮の葉しげる小合溜があるのに10年も気づかなかったなんて、ふるふるふる(にぎりこぶしがふるえている)。

 というわけでやってきました、水元公園。
 まあね、蓮があるったって、ここのは公園のだから、勝手に抜いて実験するってわけにもいきませんよ。でも、たまに葉っぱが折れて茎だけずーんと立ってるのもあるので、こういうのなら1本くらい折ってみてもいいかなと、こっそり手折らせていただきました。
 

 茎を折ってみてびっくり。なんの苦もなくすーっと繊維が出てきます。しかも、意外と強度があります。蚕の吐く糸や、蜘蛛の巣の縦糸みたいな感じです。撚りをかければちゃんと糸になりそうです。
 想像するに、織れば絹織物みたいになるような気がします。でも、絹だったら1個の繭をほどくと長い繊維になるけど、蓮はどうしたって茎より長い繊維は取れません。途中で継ぎ足しながら撚っていかなきゃならないので手間がかかりそう。
蓮の繊維 1999年8月27日撮影

 布にできるほど引っこ抜いたら犯罪になりそうなのでやめとくのですが(手の届くところにはそんなに生えてないしね)、いつか布にしたものをさわってみたく思うのです。

[追記]
 ミャンマーでは今でもハス糸で作った布を織っています。布の質は糸の紡ぎ方や織り方によって変わるでしょうが、ミャンマーの蓮布は少し厚手でしっかりしたもののようです。TBS『世界ふしぎ発見』で紹介された映像では、ハスの茎をポキンと折って繊維を引っ張り出し、机の上に置いた繊維を掌で転がすようによりをかけ、さらに何本かよりあわせて糸にしてました。『古今著聞集』に出てくる横佩大臣の娘も蓮の茎を折って糸を取り出したと書いてあるからほとんど同じやり方だと思います。
蓮の葉 1999年8月27日撮影  蓮の葉はこんなふうに、丸い葉のまんなかに葉柄がくっついてて、おちょこになった傘みたいになってます。葉の表面は水をはじきやすいので、雨上がりには小さな水たまりになっていてとてもきれい。

 葉柄がくっついてる真ん中の部分に楊子か何かで穴をあけると、長いジョウゴのようになります。葉柄を口にくわえて、葉にお酒を注いで飲むと、不老長寿を得られると言われてます。
 ただし、蓮の葉エキスはとても苦いので、体に良くても美味しくはないそうです。

 どのくらい苦いかと思って、手折った茎の切り口を舐めてみましたが、そんなに苦くはなかったです。もしかすると苦み成分はアルコールに溶け出す性質があるのかもしれません。それとも珍獣が舐めた茎は乾燥しかけてて味が飛んでたのかもしれません。いちど蓮の葉ジョウゴでお酒飲んでみたいです。
 

 生えてきたばかりの若い葉は、こんなふうに丸まってます。
 ちょっとジュンサイみたい。
蓮の若葉 1999年8月27日撮影

 余談だけど、スターウォーズ・エピソード1に出てくる女王様はアミダラという名前。たぶん阿弥陀をもじったんでしょう。アミダラ女王の侍女の名前はパドメといって、これはたぶん、サンスクリット(インドの古語)のパドマからとったんだと思う。意味は蓮。阿弥陀様には蓮華がつきものなのです。また、インドでは古来もっとも良い女のことをパドミニーというそうでございます。


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