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天からおりてきた虫、それが蚕

 昨日はあんまり暑くて動けなくなり、夕方からエアコンを入れて数時間寝ちゃったんですが、部屋の温度はそこそこ下がっているのに体の中から熱が出ていかない感じでしたよ。こりゃ油断してると本当に死人が出ますよ。みなさんお気を付けて。

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▲四齢になるとおでこに目のような模様ができる

 子供のころ、この部分を蚕の目だと思ってました。本当の目は頭についているはずです。団子っ鼻のように見える小さな丸い部分が頭です。

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▲凛々しい……!

 眠じゃなくてもたまにこんなふうに上半身を立てて天を仰いでいることがあります。眠のように長くは続かず、しばらくするとまた桑を食べ始めます。

 この時期になると手触りがよくなります。シンと冷たくてすべすべしてる。薔薇の花びらみたい。人に触れられるのはストレスになるので直接さわらないほうがいいのでしょうが、ついなでたくなってしまいます。


【養蚕関係の伝説】
 養蚕のはじまりを説明する伝説で、日本では「おしらさま」と呼ばれているお話が中国にもあります。先日書いた「捜神記」の「馬の恋」がそれにあたります。これはかなり古くからある伝説で、蚕になった娘は馬頭娘(ばとうじょう)と呼ばれて養蚕の守り神になります。

馬頭娘(中国の伝説)

  • 馬が娘に恋をする
  • 娘の父親が馬を殺して皮をはぐ
  • 馬の皮が娘をつつんで高い桑の木に舞い上がる
  • 娘は蚕という虫になる

 娘は馬の皮をかぶって高いところへ昇り、蚕に生まれ変わって戻ってきます。蚕は脱皮をする生き物ですから、着物をぬぐことで地上に降りてきたともとれます。そう思うと、この話は日本の羽衣伝説によく似ています。

羽衣伝説(日本の民話)

  • 天女が地上の浜辺で羽衣を脱いで水遊びをしている。
  • 若者が羽衣を盗んだので天女は空に帰れなくなり、若者の妻になる。
  • 天女は若者が隠していた羽衣をみつけて空へ帰ってしまう。

 天女は着物を脱いだことで人間になり、また着物を着て天女にもどります。馬頭娘(おしらさま)と反対の動きをしています。羽衣伝説にはさまざまな続きがありますが、注目したいのは七夕伝説付きのお話です。

羽衣伝説+七夕伝説(日本の民話)

  • 前半は天女の羽衣と同じ
  • 若者は妻を求めて不思議な瓜の蔓をつたって天へ行く。
  • 天女の父親に無理難題をふっかけられ、妻の助言で切り抜ける。
  • 最後に助言を忘れて失敗し、若者と妻は引き裂かれ、彦星と織り姫になって一年に一度しか会えなくなる。

 舅に無理難題をおしつけられ、妻の助言で切り抜けるあたりは神話のスサノオとオオクニヌシの話にも通じます。そして同じ話がシベリアのブリャート族にも伝わっています。

白鳥女房(シベリア・ブリャート族の昔話)

 長い話なので箇条書きで要約しますが、日本の羽衣伝説・七夕伝説とよく似た話です。夫婦を引き裂こうとするのが妻の父親ではないことと、ラストで引き裂かれることなくハッピーエンドを迎えるところが日本の昔話と違います。

  • うだつのあがらない若者が白鳥の衣を取り上げて自分の妻にする。
  • 領主が妻を横取りしようと若者に無理難題をふっかけるが、妻の助言で切り抜ける。
  • 領主の無理難題を解くために若者が天界へ行くことになる。妻からもらった赤い絹糸を空に投げて昇る。
  • 天界で妻の親類たちにあい、領主に命じられた宝物をもらう。
  • 領主はどんな難題も解いてしまう若者を殺してしまおうとするが、天界でもらってきた宝物を使って領主をやっつける。
  • 若者と白鳥の妻は新しい領主になって幸せに暮らす。
  • 参考>岩波文庫『シベリア民話集』

 天に昇るためのアイテムとして赤い絹糸を使うあたりに養蚕伝説との関連を匂わせます。日本で瓜の蔓と言われているのも、もとは絹糸だったのでしょうか。あるいは馬頭娘にある桑の木が瓜の蔓に変化したのかもしれませんが。

歐糸の野・三桑無枝(山海経・海外北経)

 歐糸の野が大踵の東にある。娘が一人ひざまずいて木によりそって糸を吐く。歐糸の東に枝のない三本の桑がある。その木は高さが百仭で枝がない。(中略)三桑の東に平丘がある。(中略……平丘に生ずる木の説明)もろもろの果実が実る所である。

 「山海経」は中国の古い伝承を、おそらくは絵地図と短い解説の形で収録したもので、現在では解説の部分しか残っていません。上記の部分は娘が蚕(糸を吐く虫)に生まれ変わった馬頭娘の伝説を記録したものだと言われています。娘がよりそう木は三桑無枝と同じものかどうか、この文章だけではわかりません。

 三桑は「山海経」の別の部分にも登場します。こちらには馬頭娘の話はありませんが、怪しい蛇が多いとあるのが気になります。

三桑(山海経・北山経)

 三本の桑がここに生えている。その木にはみな枝がなく、高さは百仭。百果の木がここに生えている。その下に怪しい蛇が多い。

 海外北経で糸を吐く娘と描かれているものが、北山経では蚕として描かれ、解説者が蛇と記述したと解釈するのは突飛すぎるでしょうか。


 ところでみなさん、わたしのサイトにはいろんなものがありますよ。下記は大昔の掲示板のログで、七夕の伝説や行事について書いてあります。あら、牛郎が牛の皮をかぶって天に昇るって、あたしゃ自分で書いてますよ。これっぽっちも覚えてませんでした。脳細胞が破壊されてますね、けけけけ。
http://www.chinjuh.mydns.jp/saluto/0107070lg.htm

タグ: カイコ 伝説

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