ソバの仲間について
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和名 | ソバ(蕎麦) |
別名 | クロムギ(黒麦の意) ソバムギ(稜麦?) |
学名 | Fagopyrum esculentum ソバ Fagopyrum tartaricum ダッタンソバ Fagopyrum cymosum シャクチリソバ |
科名 | タデ科 |
沖縄口 | |
アイヌ語 | |
中国名 | 蕎麦、蕎麥 金蕎麦(シャクチリソバのこと) |
英名 | buckwheat |
エスペラント | fagopiro(学名に由来) |
その他 | Buchweizen(独)雄麦? sarrasin(仏)サラセンの grano saraceno(伊)サラセン人の麦 trigo-mouro(葡)ムーア人の麦 alforfon(西) |
花 | 春から夏にかけて |
実 | 初夏から秋にかけて |
原産地 | 中央アジア(諸説あり) |
蕎麦(そば)
蕎の麦(ムギ)の意味。ムギと同じく穀物のひとつと考えられていた。「蕎」という字に含まれる「喬」という文字には高いという意味があるので、背の高いムギという意味だったのかもしれない。
蕎麦という言葉がいつごろから使われていたのかはわからないが、中国は梁の時代(5~6世紀)の文献に「蕎麦」の文字が見られるという。また詩人の白居易(772~846年)は「月明蕎麦花如雪」と詠んでいる。月は明るいし蕎麦の花は雪みたいだなぁという意味。
日本では養老六年(722年)に元正天皇が「晩禾・蕎麦・大麦・小麦」を植えるようにと詔を出したと『続日本紀』にある。これが記録に残っているものとしてはかなり古い例ではないかと思うが、それ以前にも知られていたはずである。
また、延喜十十八年(918年)『本草和名』に被牟岐(そばむぎ)という表記でソバがとりあげられている。
黒麦(くろむぎ)
ソバの古名。ソバは麦の仲間で黒いものだと考えられていたのだろう。延長八年(930 年)『倭名類聚抄』に久呂無木という表記がある。
稜(そば)
角張っていること。ソバとの関係はよくわからないがソバもまた角張った実をつける。「優婆塞が行ふ山の椎が本あな稜稜し床(とこ)にしあらねば」(『宇津保物語』菊の宴)。
稜栗(そばぐり)
ブナの木のこと。実に角があるのでそう呼ばれる。
「蕎麦」を日本でソバと呼ぶのは実に稜(そば)があるためだろうか。学名でもソバ属のことをブナの実に似た麦と呼んでいる。偶然にしてはできすぎた一致。
蕎麦の木 または 稜の木(そばのき)
ブナの木の古い名前。
また、カナメモチの古名でもあるが( インフォシーク・大辞林 )どのあたりが「稜」なのかよくわからない(参考>植物園へようこそ・ベニカナメモチ)。
Fagopyrum esculentum
ソバの学名。fagopyrum はブナの実に似たムギという意味。esculentum は食用になるということ。
Fagopyrum tartaricum
ダッタンソバの学名。tartaricum はタタール(ダッタン)の、という意味。
Fagopyrum cymosum
シャクチリソバ(シュクコンソバ)の学名。cymosum は集散花序の、という意味だと思う。集散花序というのはごくごく大ざっぱに説明すれば小さな花が集まって花穂を作るもののことだが、厳密にはさまざまな形態があって説明しにくい。
buckwheat
ソバを意味する英語。wheat はムギのこと。buck は跳ねる、もしくは 雄 という意味だが、どちらなのかよくわからない。
シャクチリソバ(赤地利蕎麦)
草も木も生えないような荒れ地に便利ということで、どこにでも生える丈夫なソバという意味。
蕎麦滓(そばかす)
顔にできるごく小さな茶色の斑点。雀斑と書くことが多い。真夏の太陽をあびると増えるため夏日斑(かじつはん)、スズメの卵の模様に似ていることから雀卵斑(じやくらんはん)ともいう。
思春期の少女にできることが多く、そばかすのある女の子といえば、健康的で明るい子といった印象がある。アニメ『キャンディ・キャンディ』の主題歌にも「そばかすなんて、気にしないわ」と歌われている。
蕎麦殻(そばがら)
ソバ粉をとったあとに残る固くて黒い殻のこと。軽くてしっかりしているので枕に詰めるなどして使う。これのことを蕎麦滓ともいう。
蕎麦祖神、蕎麦天皇
天正天皇のこと。大規模な蕎麦の栽培を行ったことから。
麦と蕎麦(中国ナシ族)
むかし、穀物と雑草は混ざって生えていた。神様は役に立つ五穀を草から分けようと思い立ち、品評会を開くことにした。
隣どうしで暮らしていた蕎麦と麦は一緒に品評会に出かけることにしたが、麦があんまり肉付きがよく真珠のように美しいのを見て、蕎麦は心配になった。 「麦が品評会に出たら、カサカサで見劣りのする自分は五穀に選ばれないかもしれない。そうだ、麦を追い返してしまおう」 そう思って、蕎麦は麦をバカにしてこう言った。 「麦さん、あなたはやせっぽちで弱々しくて、そんなんじゃ品評会で負けてしまうわ。出かけても無駄だから帰ったほうがいいんじゃない?」
それを聞いて恥ずかしそうにうつむく麦だったが、負けずにこう言い返した。 「そりゃあ、わたしはあなたみたいに固く角ばってはいないけど、お腹のなかには人間が好んで食べる粉がたくさん入ってる。茎だって家畜の餌になるんですもの。全身が宝なのよ。やれるだけやってみるわ」
蕎麦はまた心配になった。自分は固い殻があるけど中の粉は麦より少ない。茎は長いけれど家畜の餌にはならない。このままでは負けてしまうかもしれない。そう思うと急に腹がたってきて 「あんたって本当にバカよ。あたしの言うことを聞けないんなら、こうしてやるわ!」 蕎麦はとびあがって、自分の固い頭を麦に打ち付けた。麦のお腹に筋があるのはこの時の怪我のせいだ。
神様は蕎麦がどうして麦をいじめたのかおたずねになった。 「麦が悪いんです。あたしにはアヒルやニワトリでもつつけない固い殻があるのに、弱虫の麦があたしのことをバカにするから!」 「麦は弱くてもだまっていいことをしているんだよ。それなのにお前ときたら…」
神様が麦の肩をもつので、蕎麦は怒ってこう言った。 「もうけっこう。あたしは五穀の仲間になんか入らなくても平気よ。今日からあたしは三日以上土の中にはいない。芽を出しても三カ月以上土の上にはいないわ。その間に土の中の血を全部すいとってしまうんだから!」 そういって、蕎麦は怒って帰ってしまった。蕎麦は成長がはやく、蕎麦をまいたあとの土壌がやせるのはそういうわけだ。
一方、麦は体に傷ができてしまったが、 「お前がもし、空豆のあとに続いて頑張るのならば穀物の仲間にしてあげよう」 そう神様に言われてだまって頭をさげた。麦をそらまめよりも遅く蒔き、収穫も空豆より後なのはそのせいである。
(参考>筑摩書房『石の羊と黄河の神』石川鶴矢子)